2009年12月28日

阿蒙追悼

可憐な花と大輪の花


久しぶりに見た彼の人の後姿に呂蒙は足を止める。
後姿だけでも誰なのか呂蒙には良く分かった。
声を掛けようか迷っているとその人は不意に振り返った。


「あ」


視線の先に呂蒙を見つけて大喬はふわりと変わらぬ笑顔で微笑んだ。
夫・孫策が亡くなり先日、義弟である周瑜も亡くなった。


「阿蒙」


あの頃から変わらない呼び方。
今ではその呼び方をするものは尚香のみだった。


「大喬様、お久しぶりです」
「ええ、阿蒙もお元気そうで何よりです」


ここにやってくるのも本当に久しぶりだった。
中庭に立ち入らなくなってもう何年も経つ。
幼い尚香と孫権の遊び相手をしていたあの頃以来だろうか。
ここは変わらない、そして、彼の人の姿も。


普段なら立ち入らないこの場所に呂蒙が来た理由。
大喬も呂蒙の訪問を知らなかったようだ。


「今日は何かご用事でも…?」
「ああ、姫にここに来るようにと…」
「あら…」
「姫は何も申しておりませんでしたか?」
「ええ」
「ふむ」


そう言って呂蒙が考え込む。
すると大喬は呂蒙の手の中のものに気付いたようだ。


「阿蒙、それは…?」
「ああ、そうでした。忘れるところでした」


可愛らしい小花の飾りの着いた髪留め。
それに大喬は心当たりがあった。


「懐かしいですね」


幼い頃に尚香が大喬に欲しいと強請った髪留め。
それが何故、呂蒙の手にあるのだろうか。
しかし、それが大喬のものだったことは呂蒙は知らない。


「もしかしてそれを私に…?」
「姫があの時、すぐにオレのところに持って来ました。
何故、姫がオレのところに持ってきたのか。
髪留めなど不要なオレの元に」


そっと、大喬の手に髪留めが載せられる。
尚香が強請った意味は分からないままだ。


「やはり、大喬様のものだったのですね」
「花は枯れてしまうのでずっとずっと、思い出に残るものが欲しいと言われて渡したものです」
「そうだったのですか」


白い小さな小花は可憐な大喬によく似合う。
何故、あの時、尚香がこの髪留めを持って来たのか呂蒙にはようやく理解できた。
あの時、ほのかな恋心を抱いていた。
それを知っていての尚香の小さな小さな気遣い。


「お返しいたします、もう、オレには不必要なものですからな」
「幸せになれます?」
「ええ、多分」
「阿蒙にはきっと、赤い大輪の花の髪留めの方が良いかもしれませんね」


その言葉の意味するものは。


「そうですな」


そう言って呂蒙も口元に笑みを浮かべた。
赤い大輪のようなちょっとだけ策士な花の少女を思い出す。
最後に呂蒙はもう一度、頭を下げてその場から去る。
きっと、ここにはもう来ることはないだろう。


消えていく呂蒙の後姿を見送って大喬は二人の幸せを願うのだった。





29日は呂蒙さんの命日ということで追悼小説です。
今日、これから帰省なので慌てて更新。
ブログへの更新で申し訳ないです。
出発ギリギリに仕上げましたー。
というわけで呂蒙さん追悼小説です。
策大、蒙尚、前提の呂蒙→大喬なお話です。
posted by 藤井桜 at 18:56| 宮城 ☔| 三國&戦国&大戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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