執務室のあらゆる場所が賊が入ったのではないかと思うくらい乱雑だった。
積み重ねられた書簡も辺りに転がり足の踏み場さえもない。
どうしてそういうことになったかと言うと時間は少し前に遡る。
大喬に買った髪飾りが見つからないのだ。
先日、城下に下りた際に見つけた綺麗なトンボ玉と組み紐を合わせた赤い髪飾り。
ここ最近、仕事が忙しくて執務室の隅に置いておいたはずだったがふと思い出した。
買っておきっぱなしにしていたことに。
しかし、いざ探すとなると見つからない。
周瑜なら「そんな大事なものだったら置いた場所くらい覚えておくんだ」と言って怒るのだろう。
「そ、孫策様…?!」
一礼して入ってきた呂蒙が執務室の惨状に唖然とする。
足の踏み場すらなくてその場所に立ち尽くす。
「ああ、阿蒙。いいところに来た。
探すの手伝ってくれ」
「探し物ですか?」
これだけ散らかっていてはどこに何があるのか分からない。
それでも呂蒙は文句一つ言わずに手近の書簡を手に取りつつ孫策の元までやってきた。
「これだけ探しても見つからないのでしたらお屋敷の方ではないのですか?」
「持って行った記憶ないんだよな」
「では探しながら片付けましょう」
ああ。それしかないな。孫策はため息を付くと呂蒙に手伝ってもらいながら片付け始めた。
少しづつ執務室は片付いていくがなかなか目当てのものは見つからない。
「どこに行ったんだ?」
粗方、探したのに見つからない。
髪飾りは一体、どこに行ってしまったのだろうか。
「どこに行ったんでしょう…」
ふと考え込んで呂蒙が何かを思い出したように言葉を続けた。
「孫策様が髪飾りを購入された日、騒いでおられませんでしたか?」
「ああ、トンボ玉が外れて…ああ!」
何かを思い出したようだ。
ばたばたと忙しなく執務室を飛び出した。
呂蒙は聞いていたのを思い出していた。
孫策がトンボ玉が外れて大騒ぎしていたことに。
あのまま、修理を頼んで忘れていたのではないだろうか。
程なくして髪飾りを携えた孫策が帰って来た。
その表情は嬉しそうだ。
「良かったですね」
「ああ、阿蒙、助かった。
お前はやっぱり探し物の天才だな」
「見つかって何よりです」
「じゃあ、ちょっと大喬のところ行ってくるな。
折角の休みなのに悪りぃな、阿蒙」
「いえ」
嬉しそうに遠ざかっていく君主を見つめて呂蒙はそっとため息を付いたのだった。
了
孫策と若かりし日の呂蒙さんのお話。
後日、続きでもある策大もUPしますw
ちょっと時間とれなくてブログへのUP失礼します。
そのうち、サイトへ移動しておきます。